今回はパン特集です。パン特集といっても美味しいオススメのパン屋さんやパンを紹介するのではなく、パンに含まれる添加物の話です。
特に筆者もパンには目がなく、新しいパン屋さんを見つけるとついつい覗いておすすめのパンを買ってしまうタイプの人間です。比較的身近な食品であるからこそ、習慣的に摂取する食品だからこそ、健康への影響はしっかり確認していきたいと思います。
スーパーやコンビニエンスストア等で販売されているパンには通常、成分表が添付されておりパンに含まれる食品添加物を把握することができますので、主な食品添加物をピックアップしてみました。
パンに含まれる主な食品添加物
- ショートニング(マーガリン)
- イーストフード
- 臭素酸カリウム
- 乳化剤
次に、健康への影響を食品添加物ごとの掘り下げてみました。
トランス脂肪酸(ショートニング)は先日特集していたわね
ショートニング(マーガリン)
ショートニングは正式にはトランス脂肪酸という名称で、トランス脂肪酸については農林水産省のHPにて国際機関のトランス脂肪酸に関する評価として「食事、栄養及び慢性疾患予防に関するWHO/FAO合同専門家会合 (2003年)」がありました。(一部抜粋)
トランス脂肪酸については、飽和脂肪酸(ミリスチン酸及びパルミチン酸)、塩分のとりすぎ、過体重、アルコールのとりすぎとともに、心血管疾患(CVD)、特に冠動脈性心疾患(CHD)のリスクを高める確実な証拠があるとされています
トランス脂肪酸の摂取と健康への影響:農林水産省 (maff.go.jp)
トランス脂肪酸は飽和脂肪酸、塩分のとりすぎ、過体重、アルコールのとりすぎとともに、心血管疾患(CVD)のリスクを高めるという検査結果があり、トランス脂肪酸を摂取過ぎた場合、血液中のLDLコレステロールを増やし、HDLコレステロールを減らし、冠動脈性心疾患のリスクを増やすことが示されておりました。
なお、トランス脂肪酸については個別の考察も書いているので良かったら読んでください!
上記別記事にて参照しておりますが、2012年3月の食品安全委員会の新開発食品評価書の中で食パンには平均0.16g/100g、菓子パンには平均0.2g/100gのトランス脂肪酸が含まれている一方、日本人のトランス脂肪酸の摂取許容量は約2gと言われているため、(パン以外でトランス脂肪酸を摂取しないという前提の場合)食パンは125g、菓子パンで100g程度摂取可能という計算になる。一般的に食パンは一斤350g-450gと言われており、仮に1斤400gの場合、6枚切りで2枚/日、8枚切りで2.5枚/日、というのがトランス脂肪酸の観点からとらえた許容量となる。
イーストフード
まずイーストフードの定義を調べてみました。食品表示法の別添にて定義された内容は、以下の通りです。
イーストフード
食品表示法/別添/添加物1-4/各一括名の定義及びその添加物の範囲/1イーストフード
(1)定 義 :パン,菓子等の製造工程で,イーストの栄養源等の目的で使用される添加物及びその製剤
(2)一括名 :イーストフード
(3)添加物の範囲: 以下の添加物をイーストフードの目的で使用する場合
塩化アンモニウム 塩化マグネシウム
グルコン酸カリウム グルコン酸ナトリウム
酸化カルシウム 焼成カルシウム
炭酸アンモニウム 炭酸カリウム(無水)
炭酸カルシウム 硫酸アンモニウム
硫酸カルシウム 硫酸マグネシウム
リン酸三カルシウム リン酸水素二アンモニウム
リン酸二水素アンモニウム リン酸一水素カルシウム
リン酸一水素マグネシウム リン酸二水素カルシウム
イーストフードは、安定した品質でパンを大量生産する為には必須とされているものと言われておりますが、その目的のために使用される添加物の総称を表しており、実際にどの添加物を使用しているかについては表示義務もなく一般消費者は知る由もなさそうです。従い、上記添加物に危険を感じるようであれば、基本イーストフードが含まれているパンを避けたほうがよさそうな印象を受けました。
一方、一時期コンビニエンスストアで販売されているパンの多くには、このイーストフードが含まれており、購入をためらった時期がありましたが、最近は基本的にPB商品もメーカー商品もほとんどのパンでイーストフードが含まれていない、或いは、含まれていてもごく微量(成分表示の下段の方に記載)になっており、イーストフードの使用を避ける方向でパンメーカーは意識改革をしたのだと思っていました。この点に関して、筆者の認識が杞憂なのかもしれないと感じさせる情報がありましたので念のため確かめてみたいと思います。
法律上、表示義務のないイーストフードと同様の物質を含有する成分を用いながら、イーストフードの不使用の強調表示が行われた商品があるようなのです。山崎製パンが公表した「イーストフード、乳化剤不使用」等の強調表示について」が情報源であることを突き止めました。該当部分を抜粋したものは以下の通りです。
「イーストフード、乳化剤不使用」等の強調表示のある食パンや菓子パンは、イーストフードや乳化剤と同質、あるいは同一の機能を有する代替物質を使用して製造された食パンや菓子パンであり、添加物表示義務は回避できますが、実際はイーストフードや乳化剤を使用して製造された食パンや菓子パンと何ら差のあるものではありません。
山崎製パン | イーストフード、乳化剤不使用」等の強調表示について (yamazakipan.co.jp)
しかし、お客様が「イーストフード、乳化剤不使用」等の強調表示をご覧になると、実際にはイーストフードや乳化剤の機能を持つ代替物質を使用しているにもかかわらず、この食パンや菓子パンにはイーストフードや乳化剤はその代替物質を含め一切使用されていない、もしくは一切含まれていないと誤解し誤認される恐れがあります。
山崎製パンの公表情報はかなり衝撃的です。仮に上記情報が正しいのだとしたら、スーパーやコンビニエンスストア等で販売されている食パンや菓子パンの「イーストフード・乳化剤不使用」という表示は鵜のみにできないですし、消費者は成分表を見て詳細に判断するための知見をもたないといけないことを意味していると感じました。そうすると、筆者が最近のスーパー等にて、成分表にてイーストフードという表示を見かけないくなったのは、イーストフードを使用しなくなったわけではなく、単にイーストフードと同質あるいは同一の機能を有する代替物質を使用することで、イーストフードという添加物表示義務を搔い潜っているだけの可能性が高そうです。
- スーパーやコンビニエンスストア等で販売されているパンメーカーのパンは成分表示をみて消費者自身で判断する必要がある(「イーストフード・乳化剤不使用」という表示は鵜のみにできない)
- 商品表示法のルールにより必ずしも使用された材料がすべて表示されているわけではないので、少量でもイーストフード或いはそれに準ずる物質の摂取を控えたという人は、パンメーカーのパンの摂取自体をコントロールする必要がある
- イーストフードの摂取をきにせず、パンを沢山食べたい、毎日摂取したいという方は、町のパン屋さんのパンを買うべし(大量生産を目的としていない為、イーストフード等の添加物を使用している可能性は極めて低い。ただし、単価は上がる)ただし、食品添加物が入っていなかったとしてもパンには砂糖が多く使用されているため、特に菓子パンの食べすぎには要注意しましょう!
「イーストフード・乳化剤不使用」という表示を信じて今まで買っていたわ
これからは成分表示をみて判断しないといけないね
臭素酸カリウム
イーストフードはパンの大量生産のために必要な食品添加物であり、効率よくふっくらとしたパンが焼きあがるといわれております。
しかし、そのためにはイーストフードとともに酸化防止剤や酵素剤、或いは、臭素酸カリウムを使う場合があり、一部のパンメーカーでは臭素酸カリウムが今でも一部の製品の製造に使用されているようです。
では、臭素酸カリウムの健康への影響はどの程度あるのでしょうか?厚生労働省が国際がん研究機関(IARC)の評価結果について以下の通り公表されていました。(一部抜粋)
IARC(1999年)では、臭素酸カリウムは実験動物の発がん性に関しては十分な証拠があるとして、Group2B(ヒトで発がんの可能性あり)に分類している。
別添1 (mhlw.go.jp)
臭素酸カリウムはIARCにてGroup2Bの発がん性の可能性を指摘されており、この点からは臭素酸カリウムを使用したパンは摂取すべきではない、或いは、摂取量を制限する必要がありそうです。一方で、危険性が公表されている中で現在も使用しているパンメーカーはどのような基準に基づき、どのような考え方に基づき使用しているのでしょうか?
日本における臭素酸カリウムの取り扱いについては、厚生労働省にて公表されておりました。(一部抜粋)
臭素酸カリウム及びこれを含む製剤は、パン以外の食品に使用しないこと。
なお、臭素酸カリウム及びこれを含む製剤の使用量は、臭素酸として小麦粉一kgにつき○・○三g以下でなければならない。
(省略)
また、臭素酸カリウムも毒性部会においてラットに対し発癌性を示していると評価された結果に同意する。また添加物部会においてはこのものが数十年以上の歴史をもつ添加物であることの有用性を踏まえ、本物質は熱的に不安定であり、このものが品質改良剤として使用された場合、使用量によつては最終的に食品に残留しない場合があるとの検討結果を述べていることにも同意する。
2 ブチルヒドロキシアニソール及び臭素酸カリウムに今回それぞれF三四四ラットに発癌性が認められたことに対し、毒性部会及び添加物部会の「これら添加物が食品に残留することは好ましくない。有用性を評価し、その使用を認める場合は、最終食品にその物質が残留しないことが科学的に立証されていることが必要である。」とする趣旨の見解は当面の考え方としては妥当なものである。
・食品添加物としてのブチルヒドロキシアニソール及び臭素酸カリウムの取扱いについて(◆昭和57年05月10日環食化第19号) (mhlw.go.jp)
厚生労働省の見解としては、臭素酸カリウムは基本使用は不可。ただし、最終食品に臭素酸カリウムが残留しないことが立証されている場合には例外として使用可能とする。例外措置の対象はパンで、その使用量は小麦粉1Kgにつき0.03g以下、ということのようです。この点、現在臭素酸カリウムを使用しているパンメーカーのパンは、臭素酸カリウムが最終食品に残留しておらず(或いは立証されている)、かつ、その使用量は小麦粉1Kgにつき0.03g以下、という基準を充足した上で使用しているものと推察されます。
- 臭素酸カリウムは最終食品には残留していない点は立証されているようなので、食品添加物に関してセンシティブでなければ、臭素酸カリウムに関してはあまり気にせず摂取してもよさそうです。
- 一方、発がん性リスクのある添加物が最終的に残留していないと立証されていても気になってしまう方、基本イーストフードやそれと同質の添加物と一緒に使用されることから他の食品添加物の摂取も控えたいという方については、臭素酸カリウムを使用したパンは避けるというも有りだと思います。
乳化剤
乳化剤はパンの生地調整を目的とし、パンのふわったとした柔らかさや賞味期限を延ばすために使用されています。
乳化剤といっても具体的にはどのようなものから構成されているのでしょうか?食品表示法の別添にて定義された内容は、以下の通りです。
乳化剤
(1)定 義 :食品に乳化,分散,浸透,洗浄,起泡,消泡,離型等の目的で使用される添加物
別添添加物関係 (caa.go.jp)
及びその製剤
(2)一括名 :乳化剤
(3)添加物の範囲: 以下の添加物を乳化剤としての目的で使用する場合
① 乳化剤を主要用途とするもの
オクテニルコハク酸デンプンナトリウム クエン酸三エチル
グリセリン脂肪酸エステル ショ糖脂肪酸エステル
ステアロイル乳酸カルシウム ステアロイル乳酸ナトリウム
ソルビタン脂肪酸エステル ヒマワリレシチン
プロピレングリコール脂肪酸エステル ポリソルベート 20
ポリソルベート 60 ポリソルベート 65
ポリソルベート 80 別添 添加物2-1の用途欄に「乳化剤」と記載された添加物
乳化剤もイーストフード等と同じで、乳化剤としても目的として使用する複数存在する物質の総評として使用されており、基本2つ以上が使用されているようです。一方で商品の成分表に乳化剤と記載されていた場合、上記の物質のうち具体的にどの物質が使用されているかに関して一般消費者はその場で判断することができないというデメリットがあります。
乳化剤についてはIARCでの発がん性認定があるわけでもなく、危険性もないという記事もありますが、一方で乳化剤は健康リスクを与えるというイメージを持っている人も多いようです。(例えば、食パンの表示として”イーストフード・乳化剤不使用”と強調するものがある程度で、消費者としてその使用に敏感=使用されている商品を避けたい、という認識がそれなりにあるということの裏返しではないかと考えております。)
どのような理由で危険性が指摘されているのかに関して、もう少し調べてみました。Wilipediaの非イオン界面活性剤にて、参考になりそうな情報を見つけることができました。
エステル型
非イオン界面活性剤 - Wikipedia
- グリセリン脂肪酸エステル (RCOOCH2CH(OH)CH2OH)食品用乳化剤、乳化安定剤に使用されている。
- ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル天然由来の脂肪酸とのエステルは食品添加物として認可されている。
界面活性剤って洗剤に含まれているものだよね。洗剤と同じ成分が使用されているのか
一部の乳化剤を構成する成分が洗剤として使用されている界面活性剤と同じ成分のため、洗剤を食品に使用しているというイメージを生むこととなり、その危険性が指摘されているのではないかと推察することができました。
ただし、こちらに関しては食品添加物としても使用できる比較的安全な物質を界面活性剤として使用しているのか、洗剤の主成分である界面活性剤を食品添加物として使用しているのか、に関して明らかにしている研究等もありませんでしたので、同じ成分を食品添加物と洗剤の主成分である界面活性剤にて併用していることをもって直ちに危険性が高いと判断するのは時期尚早だと感じました。
筆者としてはIARC等の公式の研究機関にてその危険性が評価されているのか、或いは、危険性が否定されているのか、というのが一つの判断材料になると考えております。
なお、界面活性剤の安全性(洗剤としての使用)については横浜市の環境創造局のQA回答を見つけましたので参考に供します。
洗剤の主成分として使用されている複数の界面活性剤について、多くの研究機関による調査の結果、厚労省により「安全性に問題がない」という見解が示されています。
界面活性剤には毒性がありますか? 横浜市 (yokohama.lg.jp)
現在、一般的に使われているLAS(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)と呼ばれる界面活性剤は、水中1Lあたりに0.2~0.3mg含まれると魚の成長が阻害され、数ミリグラム以上で死んでしまうことがわかっています。
上記はあくまで界面活性剤の洗剤としての使用に関する回答となっており、乳化剤として使用する(食品として摂取する)とは前提が異なってくるので飽くまで参考情報にすぎません。ただし、横浜市にて注意喚起している界面活性剤については、LASと呼ばれるもので、乳化剤を構成している可能性がある成分(エステル系)とは属性が異なり、乳化剤として併用されているエステル系の界面活性剤の危険性に関しては触れられていないことから、間接的に毒性が強くないのでは?と推察できそうです。もちろん、直接安全性を評価されているわけではないことから、問題ないとは断言できないですが、すべての界面活性剤は体に悪く、かつ、それの成分が乳化剤に当てはまるということは事実でなさそうという点は理解できたと考えております。
臭素酸カリウムと乳化剤は疑いはあるけれど、明らかに毒性がある報告もないので各人レベルでの判断になりそうね
トランス脂肪酸基準で摂取量を管理するか、街のパン屋さんで購入することになるね
今回の考察の結果わかったことは以下の通りです。
(参考1)農林水産省/IARCによるヒトへの発がん性評価から抜粋
国際がん研究機関(IARC)の概要とIARC発がん性分類について:農林水産省 (maff.go.jp)
- グループ1:発がん性がある
- グループ2A:おそらく発がん性がある
- グループ2B:発がん性がある可能性がある
- グループ3:発がん性については分類できない